PARIS
・PARIS
Bunkamura ル・シネマ
『スパニッシュ・アパートメント』のセドリック・クラピッシュ監督の最新作。パリに住む人々の群像劇で、パリ礼讃、と言っていいくらいパリに対する深い愛情を感じる映画。
都市の中でいろいろな人がいろいろな事情を抱えつつ悩んだり喜んだりしながら生きていて、知らず知らずのうちに皆どこかですれ違っている、というような作品は、特に中高生の頃に好きでよく観ていた気がするのだけれど、ここしばらくは観ていなかった。この作品はまさにそういう映画で、何だか懐かしい感じだった。
副題にGuide de Parisとあるように、人間模様を描いているが、人物よりもパリに対して余韻が残った。観ている最中も、もしここに住んでいたら・・と連想していて、ついつい暮らしてみたくなった。決してゴージャスではないけれど、どことなくよい香りのしそうな生活感。それは例えば、パリジェンヌの無造作でかえって色気のある髪なんかから醸し出されていたりする。それから吐息を感じさせる言葉の語り口は、なぜだか無防備に「フランスってすごいな〜」と思ってしまう魔力がある。フランス映画は詩的な言い回しが目立つ気がするけれど、この映画は少なかったと思う。際立っていたのは、教授が女子生徒を匿名メールで口説くシーンくらいだろうか。言葉の上でも難解な部分がないせいか、すんなり観られる映画だった。ただし上映時間は思いのほか長い。
人物が多面的に描かれているところが好きだった。それぞれの人物が、「共感を呼ぶ良い人物」「憎らしく思える悪い人物」のように、この人はこういう人だ、というキャラクター設定が明確になされているのではない。優しく思慮深そうな人も自分勝手で冷たい一面を見せるし、浅はかで傲慢に見える人も弱さを抱えて憂いを帯びた優しい目をする。ジュリエット・ビノシュ演じる女性は、弟思いの献身的な女性であるが、時には、自分の身の回りのことで頭がいっぱいになり、社会福祉士である彼女に相談に来た浮浪者を軽くあしらう。そんなふうに個々の優しさも自分勝手さも描きつつ、それらを温かい目線で包む、人情味溢れる作品だった。そこがとてもよかった。
皆いろいろな側面を持っており、それらをすべて覗き見ることはできない、ということは、私自身、日々心の片隅において行動しようと思いつつ、忘れがちなことでもある。他人の一面しか見えてはいないのに、どうしてもその一面をその人のすべてのように思って、印象を形成しがちである。せめて、そうやって自分が勝手に作った印象を、また別の人に話して広げたりしないように、意識しておきたいものだ。
1000円の日だったからか、館内は満席。久しぶりに満席の映画館に入った。
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